2008-01-01から1年間の記事一覧

『デス博士の島その他の物語』ジーン・ウルフ【3】

また、2週間経っちゃいましたね。更新が滞り気味だったのは、年末で忙しかったのに加えて、難解な短編にぶち当たっちゃったせい。 ジーン・ウルフは、「ここ、ポイントですよ」というような書き方をしないので、気が抜けません。「デス博士の島その他の物語…

『デス博士の島その他の物語』ジーン・ウルフ【2】

ちょっと忙しくて、間が空いてしまいましたが、気にせずいきます。 「アイランド博士の死」 頭に傷跡のある少年が島の浜辺に現れるところから始まります。 少年はあきらめて立ちあがり、あたりを見まわした。頭が、ある種の爬虫類のように絶えまなく動いてい…

『デス博士の島その他の物語』ジーン・ウルフ【1】

今回は、SF。 『デス博士の島その他の物語』ジーン・ウルフ です。 ジーン・ウルフは、アメリカのSF作家。文体にこだわる人らしく、その作風は難解だとか実験的だとか言われています。そう聞くとつい構えちゃいそうですが、この本は短編集なのでそれほど…

『ペドロ・パラモ』フアン・ルルフォ【5】

簡潔にして濃密。これがこの作品『ペドロ・パラモ』の印象です。余計なものを削ぎ落とした文章の背後に漂う、濃密な気配。何かがありそうなんだけど、それが何だかなかなかわからない手探り状態で読み進んでいくわけです。 物語は、時系列をバラバラにした断…

『ペドロ・パラモ』フアン・ルルフォ【4】

読み終えました。わずか200ページだってのに、うーん、濃密。二度読み返したくなるような、複雑な構成にクラクラします。 後半、主に描かれるのは、ペドロ・パラモとスサナの関係です。ペドロは夫を亡くしたスサナを無理矢理コマラの町に呼び寄せ、妻にする…

『ペドロ・パラモ』フアン・ルルフォ【3】

そう言えば、前回読んだ最後のあたり、ダミアナのセリフに主人公の名前が出てきました。フアン・プレシアド。でも、このタイミングまで名前がわからないってのもすごいですね。いろんな人物の名前が出てくるのに、主人公だけは名前という輪郭をなかなか与え…

『ペドロ・パラモ』フアン・ルルフォ【2】

さあ、どんどんいきましょう。 夜、家の外の物音に耳をすますエドゥビヘスに主人公は「どうかしたのか」と尋ねます。エドゥビヘスの答えはこうです。 「メディア・ルナの道を走るミゲル・パラモの馬だよ」 「じゃ、メディア・ルナには誰か住んでるのかい?」…

『ペドロ・パラモ』フアン・ルルフォ【1】

『バートルビーと仲間たち』に登場した作家を読むっていうことで、いろいろ迷ったんですが、書けなくなった理由として「セレリーノおじさん」を挙げていた、この作家にしました。 『ペドロ・パラモ』フアン・ルルフォ です。 フアン・ルルフォはメキシコの作…

『バートルビーと仲間たち』エンリーケ・ビラ=マタス【7】

一筋縄じゃいかない作品でしたね。するするっと読めちゃうと思ってたんですが、思いのほか時間がかかってしまいました。哲学問答みたいな趣もあって、あれこれ立ち止まって考え始めちゃうと、なかなか前に進まないという。さらに、思いつくままに書き散らか…

『バートルビーと仲間たち』エンリーケ・ビラ=マタス【6】

読み終えました。「小説を読んだ」という充実感とはちょっと違う、曰く言い難い読後感。何だかいろんな考えが浮かんでは消え、気分が拡散していくような感じ。「書けないことについて書く」ことのとらえどころのなさが、最後の最後まで続きます。 でも、まず…

『バートルビーと仲間たち』エンリーケ・ビラ=マタス【5】

ちょっと間が空いてしまいましたが、今回はぐいぐい読んじゃいます。 この小説の特徴として、一本の道筋に沿って進むのではなく、連想ゲームのように次々と文学作品について語られ、寄り道や回り道をくり返すという点が挙げられます。そもそも、本筋なんても…

『バートルビーと仲間たち』エンリーケ・ビラ=マタス【4】

「バートルビー症候群」に関するメモっていうスタイルも、ちょっとバートルビー的な気がしますね。話をまとめる気配はまったくなく、様々なエピソードの断片が連想のおもむくままにあっちこっちへ飛びながら綴られていく。物語性みたいなものを期待して読む…

『バートルビーと仲間たち』エンリーケ・ビラ=マタス【3】

このバートルビー症候群に関するメモは日記の隅に書かれているようですが、そのせいか、たまに語り手のプライベートな事柄がチラチラと登場します。これが、妙に気になるんですよね。中年独身男の自意識みたいなものが、引っかかる。今回は、そんなところか…

『バートルビーと仲間たち』エンリーケ・ビラ=マタス【2】

ひたすら日記に、書けない作家・書かない作家のエピソードをメモしていく「語り手」。これ、ある意味、ブロガーみたいなもんでしょうか? でも、この人、誰に読ませるつもりで書いてるんだろう? では、続きにいきます。と言っても、何か展開があるわけじゃ…

『バートルビーと仲間たち』エンリーケ・ビラ=マタス【1】

ごぶさたしておりましたが、ようやっと更新。読みますよー。読んでる途中で書きますよー。 ということで、2カ月前の予告通り、今回読むのはこれ。 『バートルビーと仲間たち』エンリーケ・ビラ=マタス です。 エンリーケ・ビラ=マタスは、スペインの作家…

言い訳

予告をしたのに、全然更新してません。というか、読みたいと思ってるんですが、時間がなくて読めてません。 8月中には手をつけたいと思ってるんですが、あんまりそれを強調しすぎると、ヨムヨム詐欺になっちゃうので、 まあ、「そのうち読むかも」くらいの…

予告

一応、次読もうと思ってる作品を予告しておきますね。 ちょっと前に友人に勧められ気になってた、スペインの作家エンリーケ・ビラ=マタスの『バートルビーと仲間たち』を読みます。 何か「妙な小説」っぽいんですけど、「妙な」とか「変な」とか言われるも…

『告白』町田康【9】

堪能しました。すごくよかった。質量共に町田康、会心の作と言ってもいいんじゃないかな。もっと早く読んでおけばよかった。最初にも書きましたが、町田康の小説は、デビュー作『くっすん大黒』から芥川賞をとった『きれぎれ』あたりまでせっせと追いかけて…

『告白』町田康【8】

残り200ページを、一気に読み終えてしまいました。すごかった。傑作。未だ余韻にひたっておりますが、とりあえず前回の続きから。 せっかく縫と所帯を持ったのに、熊太郎はこれまでの生活を改めるわけでもなく、家を留守にしてふらふらとあたりをほっつき歩…

『告白』町田康【7】

熊太郎は、年を経るごとにしょうもない大人になっていきます。子供の頃は、人よりちょっと自意識過剰のかわいげのないガキだったのが、だんだんろくでなしに育っていくというか。でも、それと反比例して、熊太郎の不器用さがいつしか憎めないものに思えてく…

『告白』町田康【6】

この小説の冒頭で、熊太郎は「明治二十年、三十歳を過ぎる頃には、飲酒、賭博、婦女に身を持ち崩す、完全な無頼者と成り果てていた」とありました。そのあと時間を遡り、熊太郎の少年時代・青年時代が描かれていくわけですが、ついに熊太郎も34歳。冒頭で紹…

『告白』町田康【5】

「ハッピーとバッドの間を輾転反側」した翌朝。 翌朝。早いうちに寝床から出てきた熊太郎は土間にいた平次に挨拶をした。 「おはようさんでござります」うぷぷ。土間で口を漱(すす)いでいた平次は驚いて噎せた。 「なんや、熊やないか。びっくりさせやがっ…

『告白』町田康【4】

僕は河内弁がどんなものなのかよく知らないんですが、町田康の独特の言語感覚は、読んでいて非常に面白いです。例えば、女子といちゃつくことを、「じゃらじゃらする」と表現するんですよ。いいなあ、これ。使ってみたいなあ。 では、続きです。 まっとうに…

『告白』町田康【3】

それにしても、熊太郎って男は突っ込みどころが多すぎ。そりゃあ作者でなくても、「あかんではないか」って言いたくなりますよ。今回は、城戸熊太郎、賭場で大暴れの巻です。 駒太郎の牛を弁償代は30円。そこで文無しの熊太郎は、以前葛木ドールを殺した御陵…

『告白』町田康【2】

「文体のリズム」って簡単に言っちゃったりするわけですが、町田康の場合のそれは、決してなめらかなリズムじゃないんですね。明治の初期を舞台にしていながら現代的な言い回しが出てきたり、客観的な記述が続いたと思ったら急に作者の独白になったり、とこ…

『告白』町田康【1】

別に海外文学ばかり読むって決めてるわけじゃないんですよ。「読みたいけどなかなか手を出しづらい本を読む」っていう主旨に合っていれば、日本ものだって読みます。 ということで、今回は、680ページという分厚さがハードルになりそうなこれ。 『告白』町田…

「ミルハウザーまつり」を終えて

さてさて、3つの短編集を読んだわけですが、まとめて読むと、ミルハウザーが好みのモチーフを、飽きもせずにくり返しくり返し描いていることがよくわかります。どの作品も、金太郎飴のように似ているんですよ。だからこうやって立て続けに読んでいると、あ…

『ナイフ投げ師』スティーヴン・ミルハウザー【5】

初っぱなに登場する表題作「ナイフ投げ師」から、いつにも増して不穏な緊張感が張りつめていましたが、こうして読み終えると、ミルハウザーの暗い想像力が発揮された短編集だったなあと思います。「病的」ってのは言い過ぎですが、どこか怪しく不健全、倒錯…

『ナイフ投げ師』スティーヴン・ミルハウザー【4】

いよいよ残り3編、いきます。 「パラダイス・パーク」 この短編集の中で最も長い作品。1912年、コニー・アイランドに作られた遊園地「パラダイス・パーク」が、1924年に火災で焼失するまでの変遷を、例によって報告書のようなタッチでまとめた作品。ストー…

『ナイフ投げ師』スティーヴン・ミルハウザー【3】

ミルハウザー作品に特徴的な人称といえば、一人称複数の「私たち」じゃないかな。まあ、「我々」でも「僕ら」でもいいんですけど、英語にすると「We」ですね。この「私たち」は、『イン・ザ・ペニー・アーケード』にも、『バーナム博物館』にも、以前読んだ…