2010-01-01から1年間の記事一覧

『メイスン&ディクスン』トマス・ピンチョン【3】

博学英国犬の登場シーンもそうだったし、前回もチラッと書きましたが、この小説、ところどころで登場人物たちがいきなり歌い出すんですよ。言わば読むミュージカル。これが唐突で、可笑しいんですよ。トボケてるというか、ノンシャランとした味わいがある。 …

『メイスン&ディクスン』トマス・ピンチョン【2】

柴田元幸による擬古文の訳文ですが、漢字で表せるものはできるだけ漢字にする、という方針のようです。「費府」は「フィラデルフィア」、「蘇門答剌」は「スマトラ」とルビが振られています。さらには、「戦斧」は「トマホーク」、「堅麺麭」は「ビスケット…

『メイスン&ディクスン』トマス・ピンチョン【1】

メガノベルっていうのかな。質量共に分厚い小説を、このブログでは積極的に読んでいこうと思っていたんですが、ここのところ短編集が続いちゃってました。なので、予告した通り、久々に大長編いきますよ。 ということで、上下巻のこれ。 『メイスン&ディク…

予告

今年から、新潮社で「トマス・ピンチョン全小説」という全集シリーズの刊行が始まりました。ピンチョンは、僕の「いずれちゃんと読んでみたい作家リスト」の上位にランクしている作家です。ただ一方で、分厚い&難解というイメージからなかなか手に取りづら…

『マジック・フォー・ビギナーズ』ケリー・リンク【4】

ヘンテコ濃度が高い。ひとことで言えばそういうことになるんじゃないでしょうか。前作『スペシャリストの帽子』もなかなかのものでしたが、さらに濃くなっている。 例えば、「ザ・ホルトラク」の「ゾンビが訪れるコンビニ」という設定。これだけでヘンテコは…

『マジック・フォー・ビギナーズ』ケリー・リンク【3】

残り3編、読み終えてしまいました。やっぱ好きだなあ、ケリー・リンク。 「妖精のハンドバッグ」はヒューゴー賞、ネビュラ賞、ローカス賞を、表題作の「マジック・フォー・ビギナーズ」は、ネビュラ賞、ローカス賞、英国SF協会賞を受賞してるとか。いずれ…

『マジック・フォー・ビギナーズ』ケリー・リンク【2】

前回読んだ、「ザ・ホルトラク」でゾンビがわけのわからないセリフを喋るシーンがあるんですが、その後の短編「大砲」の冒頭でそのゾンビが言っていたセリフと同じフレーズが出てきます。「あれ?」って思ってたんですが、この短編集を読み進めていくと、同…

『マジック・フォー・ビギナーズ』ケリー・リンク【1】

ミランダ・ジュライは、面白いけど乗りきれない部分もあったりしたので、別の女性作家の短編集に再度チャレンジします。 前回予告した通り、 『マジック・フォー・ビギナーズ』ケリー・リンク です。 ケリー・リンクは、以前読んだ第一短編集『スペシャリス…

『いちばんここに似合う人』ミランダ・ジュライ【3】

ミランダ・ジュライは、面白いところと苦手なところがあるタイプの作家でした。僕は「女ごころ」がピンとこないところがあるんですが、ミランダ・ジュライの作品は、ぎゅーっと絞るとその手の「女ごころ」がぽたぽた垂れてくるようで、ちょっと負けそうにな…

『いちばんここに似合う人』ミランダ・ジュライ【2】

残りの8編を読み終えました。前半同様、イタイ人たちが次々と登場します。ちょっと対処に困るけど、身近なところにもいるかもしれない、そんなタイプの人たち。 では、いきましょう。 「わたしはドアにキスをする」 2年間だけしか活動しなかったバンドのボ…

『いちばんここに似合う人』ミランダ・ジュライ【1】

友人がブログで感想を書いていたので、ならば僕も、ということで読んでみることにしました。 最近出たばかりの話題の海外文学のこれ、 『いちばんここに似合う人』ミランダ・ジュライ です。 作者のミランダ・ジュライは、ロサンジェルス在住。カンヌでの受…

『文豪怪談傑作選 室生犀星集 童子』室生犀星【5】

大正時代の幻想小説には魅力的なものがけっこうありますが、室生犀星もそうした作家の一人に数えていいでしょう。作品に立ちこめる夕闇の気配に、当時の薄暗い夕暮れや街燈の薄明かりを思い、不思議とキュンときます。 夕暮れは昼と夜の境界にあって、どちら…

『文豪怪談傑作選 室生犀星集 童子』室生犀星【4】

はいっ、最後まで読み終えました。今回は、3パート目の3編、「三階の家」「香爐を盗む」「幻影の都市」と、最後の1編「しゃりこうべ」。3パート目は、都市を舞台にした怪奇譚という位置づけのようですが、これがいずれも薄気味悪い話ばかりで大満足。そ…

『文豪怪談傑作選 室生犀星集 童子』室生犀星【3】

今回読んだのは、2パート目の6編、「蛾」「天狗」「ゆめの話」「不思議な国の話」「不思議な魚」「あじゃり」。編者解説によれば、いずれも故郷金沢の民話や伝説をベースにしたもののようです。 「蛾」「天狗」「ゆめの話」は、江戸時代を舞台にした話らし…

『文豪怪談傑作選 室生犀星集 童子』室生犀星【2】

今回読んだのは、「後の日の童子」「みずうみ」の2編。前回の2編と合わせて、「家族小説」というくくりのようです。 「後の日の童子」 これまた、亡くなった子供が家族の元へ帰ってくるというお話。前回の「童話」「童子」とほとんど同じですね。東雅夫の…

『文豪怪談傑作選 室生犀星集 童子』室生犀星【1】

夏だし、怖い話でも読みたいなあと思っていたら、更新しないでいるうちにいつの間にかお盆も過ぎもう9月。せめて残暑が厳しいうちに読み始めよう。 ということで、今回は、これ。 『文豪怪談傑作選 室生犀星集 童子』室生犀星 東雅夫・編 です。 ちくま文庫…

『そんな日の雨傘に』ヴィルヘルム・ゲナツィーノ【5】

いやあ、よかった。ガツンとくるタイプの小説ではありませんが、僕の気分にぴったりハマりました。目にしたものからあれこれ思いをめぐらさせていくという点では、ニコルソン・ベイカーの『中二階』という小説と、ちょっと似ています。あれも好きだったけど…

『そんな日の雨傘に』ヴィルヘルム・ゲナツィーノ【4】

残り「8」〜「11」の章を、読み終えました。ああ、こうやって終わるのか…。これまでの展開から、格別ドラマチックなことは起きないとは思っていましたが、いい塩梅のところを突いてきますね。 では、だだっといきます。 仕事や恋愛において「足元がちゃんと…

『そんな日の雨傘に』ヴィルヘルム・ゲナツィーノ【3】

どんどんいきましょう。まずは「5」の章。 語り手「私」の収入源が、ここへきて明かされます。 七年前から、私は靴の試作品を試し履きする検査員をしている。断言できるが、この仕事は、私がこれまで止めずに続けてこられた人生で唯一のなりわいである。 も…

『そんな日の雨傘に』ヴィルヘルム・ゲナツィーノ【2】

この作品の主人公は、街をぶらつきつつ目に映るものからあれこれと思考を繰り広げていきます。というと、前回読んだ『アウステルリッツ』と似てるようにも思いますが、アウステルリッツは歴史や文明といったものを思索するのに対し、こちらは非常に瑣末なこ…

『そんな日の雨傘に』ヴィルヘルム・ゲナツィーノ【1】

そもそもは積読本を消化しようということで始めたブログなんですが、たまには新刊を真っ先に読む、みたいなことをしてみてもいいかも。ということで、前回予告した通り今月出たばかりのピッカピカの新刊、 『そんな日の雨傘に』ヴィルヘルム・ゲナツィーノ …

『アウステルリッツ』W・G・ゼーバルト【7のつづき】

『アウステルリッツ』については終了、というつもりだったんですが、何だかもやもやとまだ言い足りないことがある気がしてなりません。「まやかし(ファルシュ)の世界」とアウステルリッツの深い孤独について、カギカッコがないということと俯瞰で歴史を語…

『アウステルリッツ』W・G・ゼーバルト【7】

読みごたえのある小説でした。ちゃっちゃか読み飛ばせないというか、深いところに静かに訴えかけるような文体を堪能しました。 最初は、語り手の「私」がアウステルリッツという人物のエピソードを紹介し、そこに建築史や文明論が展開される、というような話…

『アウステルリッツ』W・G・ゼーバルト【6】

あと2回くらいに分けて読むつもりだったんですが、溢れ出るようなアウステルリッツの「語り」を追っているうちに、読み終えてしまいました。 ページのあちこちに登場する古びた写真を眺めて、ふうと息をつく。そんな余韻。 では、続きから。 ヴェラの元を辞…

『アウステルリッツ』W・G・ゼーバルト【5】

わ、前回の更新から、こんなに間が空いちゃったのか。なかなか、テンションを保つの難しくって、ついつい放置してしまいましたが、ようやく再開。 ざっとおさらいをしておくと、建築文化に造詣の深いアウステルリッツという人物が、自らの生い立ちや、これま…

『アウステルリッツ』W・G・ゼーバルト【4】

例によって、また少し間が空いてしまいましたが、何事もなかったかのように続けます。 前回、ひたすら自らの生い立ちを語り続けたアウステルリッツですが、まだまだ話は終わらないようです。語り手である「私」は、ロンドンにある彼の自宅を訪ね、またしても…

『アウステルリッツ』W・G・ゼーバルト【3】

この作品がアウステルリッツについて書かれた手記だと考えた場合、ページのあちこちに挿入された写真は、語り手がそれを補強するためにスクラップしたものと考えることができます。やけに古びた写真があるかと思えば、記念写真風のものやニュース記事から切…

『アウステルリッツ』W・G・ゼーバルト【2】

去年読んだ金井美恵子の『噂の娘』も改行がないまま文章が延々と続く小説でしたが、この『アウステルリッツ』もまた、改行がほとんどありません。最初は、読みづらいかなあなんて思うんですが、これが不思議なことに、文章を追うのがだんだん心地よくなって…

『アウステルリッツ』W・G・ゼーバルト【1】

さあそろろ読もうかな。ということで、久々の「読んでる途中で書いてみる」。歯ごたえのある小説をということで、これにしました。 『アウステルリッツ』W・G・ゼーバルト です。 ゼーバルトは、ドイツ生まれの作家。イギリスで執筆活動をしていたらしいの…

『マルコヴァルドさんの四季』イタロ・カルヴィーノ

「読み終えたので書いておく」第4弾。これは、再読本。関口英子さんによる新訳が出たので、そちらで読んでみました。 『マルコヴァルドさんの四季』イタロ・カルヴィーノ です。 カルヴィーノは僕の大好きなイタリアの作家。もっと言っちゃうと、海外の作家…