2008-03-01から1ヶ月間の記事一覧

『バーナム博物館』スティーヴン・ミルハウザー【1】

はい、ミルハウザーまつり第二弾、 『バーナム博物館』スティーヴン・ミルハウザー です。 ミルハウザーの第二短編集で、90年に出版されたものです。10編の短編を収録。巻末には、訳者・柴田元幸による気の利いた注釈、「訳者ノート」が付いています。 この…

『イン・ザ・ペニー・アーケード』スティーヴン・ミルハウザー【4】

短編集のタイトルが『イン・ザ・ペニー・アーケード』とは、よく言ったもんです。コインを投入していろんなゲームを楽しむように、めくるめくミルハウザーワールドが味わえる。 入り口を入ると、まずこってりとした中編を読むことになります。19世紀後期のド…

『イン・ザ・ペニー・アーケード』スティーヴン・ミルハウザー【3】

『イン・ザ・ペニー・アーケード』第三部。ここには、ミルハウザーの真骨頂ともいうべき幻想味あふれる作品が収録されています。では、順番にいきましょう。 「雪人間」 これは、前に読んだときもとても印象深かった作品。雪の持つマジックを、存分に味わわ…

『イン・ザ・ペニー・アーケード』スティーヴン・ミルハウザー【2】

『イン・ザ・ペニー・アーケード』の第二部。収録されているのは、「太陽に抗議する」「橇滑りパーティー」「湖畔の一日」の三つの作品。これらは、ミルハウザーには珍しい、リアリズムを基調に女性心理を描いた作品群です。なので、ミルハウザーらしい幻想…

『イン・ザ・ペニー・アーケード』スティーヴン・ミルハウザー【1】

ではでは、ミルハウザーまつり第一弾、 『イン・ザ・ペニー・アーケード』スティーヴン・ミルハウザー です。 80年代に出版された、ミルハウザーの第一短編集。全体は三部立てになっていて、第一部は三章から成る中編一編、第二・三部はそれぞれ三編の短編か…

予告

このブログで読んだ作家の新作が、去年から今年にかけていろいろと出ています。中でも、柴田元幸訳のこの三冊は気になるなあ。 リチャード・パワーズの『囚人のジレンマ』 ケリー・リンクの『マジック・フォー・ビギナーズ』 スティーヴン・ミルハウザーの『…

『アインシュタインの夢』アラン・ライトマン【4】

アインシュタインには、どこかロマンチックなイメージがありますね。その生涯やキャラクターには、物語の題材にしたくなるような魅力がある。そしてこの作品の一番の魅力は、そんなアインシュタインが見た夢を並べた、掌編集という構成でしょう。そりゃあ、…

『アインシュタインの夢』アラン・ライトマン【3】

読み終えました。早っ。まあ、その気になれば一日で読めちゃうような薄い本なんですが。 ではまた、その夢のいくつかを紹介しましょう。 「一九〇五年六月二日」の夢は、時間が逆に流れる世界。この夢には、アインシュタインを思わせる人物が登場します。 中…

『アインシュタインの夢』アラン・ライトマン【2】

もう一度おさらいしておくと、この小説は、アインシュタインの見た夢という設定で、現実とは異なる様相の時間を持つ世界が描かれた4ページほどの掌編群で構成されています。 ある世界では、時間は円を描いてくるくる回ります。ある世界では、時間が常に枝分…

『アインシュタインの夢』アラン・ライトマン【1】

今回も、文庫で読む世界文学。ハヤカワepi文庫から、 『アインシュタインの夢』アラン・ライトマン です。 作者のアラン・ライトマンは、理学博士号を持ち、ハーバード大学で物理学と天文学を教えていたそうです。要するにバリバリの理系。文庫の紹介には「…

『愛の続き』イアン・マキューアン【7】

小説らしい小説を読んだなあというのが、実感です。 緻密な心理描写、知的なユーモア、多義的な物語などなど、小説のおいしいところをたっぷり盛り込み、なおかつ、信頼できない語り手や手紙・レポートの挿入などさりげない構成上の仕掛けもあり、にもかかわ…

『愛の続き』イアン・マキューアン【6】

はい、読み終えました。19章の事件以降、物語に弾みがついて後半はほとんど一気読み。スピーディーな展開あり、またまた手紙の挿入があり、そして余韻を残す終章がありと、たっぷり堪能しました。「小説を読んだ」っていう手ごたえのある、読後感。 「21」の…

『愛の続き』イアン・マキューアン【5】

いやあ、面白い。気球事故、ストーカー、そして恋人との溝と、どんどん追いつめられていくジョー。マキューアンの心理描写は緻密で、目が離せません。 ジョーは、科学ライターですが、科学者になれず「科学物語」を紡いでいるだけの自分に引け目を感じていま…

『愛の続き』イアン・マキューアン【4】

この小説の隅々までコントロールされているような文章には、語り手ジョーが科学ライターという設定が活きています。明晰で面白い。でも、一見オーソドックスな小説に見えるところが曲者で、この一人称は、実は「信頼できない語り手」なんじゃないかという匂…