『イン・ザ・ペニー・アーケード』スティーヴン・ミルハウザー【4】


短編集のタイトルが『イン・ザ・ペニー・アーケード』とは、よく言ったもんです。コインを投入していろんなゲームを楽しむように、めくるめくミルハウザーワールドが味わえる。
入り口を入ると、まずこってりとした中編を読むことになります。19世紀後期のドイツ、自動人形師の生涯をたどります。続いてゲートをくぐり次のコーナー。うって変わってリアリズム作品で女性心理のレッスン。大人になる直前の少女を描いた2作品と、大人になってしまった女性を描いた1作品。次のゲートをくぐると、今度は不思議の国探検。少年を主人公にした2作品と、どこか遠くの国を描いた1作品。こうして、ドイツから始まった冒険は、東方の国へとたどり着きます。
この三部構成の並びは、かなり練られてるんじゃないかな。各作品が反射し合い、響き合うような作りになっているように思えます。女性を主人公にした第二部と、少年を主人公にした第三部は対称的。「雪人間」の雪の朝の風景は、「橇滑りパーティー」の雪の夜を思い出させます。「イン・ザ・ペニー・アーケード」の大人になりかけの少年は、「太陽に抗議する」の少女とその両親を思い出させます。それぞれ、冬と夏の話というのも合わせ鏡のようです。さらに、第三部には、第一部でたっぷり描かれた、人形、からくり、ミニチュアなどのモチーフが、ちらちらと出てきます。伝記風の長めの作品に始まり、断章を並べた小品で終わるという流れも見事です。
ちなみに、僕の好みのベスト3は、以下の通り。
1「東方の国」
2「アウグスト・エッシェンブルク」
3「雪人間」
って、結局、非リアリズム系の作品を選んじゃうわけですが。


と、これで、『イン・ザ・ペニー・アーケード』めぐりはおしまい。
次は、ミルハウザーまつり第二弾、『バーナム博物館』です。