2008-01-01から1年間の記事一覧

『ナイフ投げ師』スティーヴン・ミルハウザー【2】

こうやって短編をまとめて読むとよくわかりますが、ミルハウザーはくり返し似たようなモチーフの作品を描く人のようです。例えば、「ナイフ投げ師」の驚異の技は「幻影師、アイゼンハイム」の不気味なイリュージョンを思わせます。そして、今回読んだ、「空…

『ナイフ投げ師』スティーヴン・ミルハウザー【1】

ちょっと間が空いちゃいましたが、3月から続けてきたミルハウザーまつりも、ようやく第三弾。最後に読むのは、 『ナイフ投げ師』スティーヴン・ミルハウザー です。 1998年の短編集で、収録作は12編。今のところ邦訳されたものでは最新作になります。訳者は…

『バーナム博物館』スティーヴン・ミルハウザー【6】

『バーナム博物館』の収録作品は大きく2種類に分けられると思います。 物語に関する物語…「シンバッド第八の航海」「アリスは、落ちながら」「探偵ゲーム」「バーナム博物館」「クラシック・コミックス #1」 濃密な幻想小説…「ロバート・ヘレンディーンの…

『バーナム博物館』スティーヴン・ミルハウザー【5】

『バーナム博物館』、最後の3編、ちゃっちゃかいきます。 「クラシック・コミックス #1」 T・S・エリオットの詩をマンガ化し、それをひとコマひとコマ文章で表現するっていう、何というか「絵に描いたような」実験小説。以前、読んだときはさっぱりわか…

『バーナム博物館』スティーヴン・ミルハウザー【4】

「セピア色の絵葉書」 主人公は一人旅をしている男。彼は、訪れた村で「プラムショー稀書店」という店にふらりと立ち寄ります。 ウィンドウには雑然と、いろんな品が一緒くたに並んでいた。フープを転がす少年の絵が載った児童書がこちらにあるかと思えば、…

『バーナム博物館』スティーヴン・ミルハウザー【3】

「探偵ゲーム」 これは、この短編集の中で、最も長い作品。「シンバッド第八の航海」や「アリスは、落ちながら」同様、短い章がいくつも続くスタイルで綴られています。ちなみに、「探偵ゲーム」とは、「クルー」っていう実在するボードゲームのこと。僕はよ…

『バーナム博物館』スティーヴン・ミルハウザー【2】

この短編集、収録作の長さがまちまち。「シンバッド第八の航海」はそこそこ長めの短編だったんですが、今回は、短めの小品も含め3編分いきます。ただし、短いからってあっさり読めるとは限らないのがミルハウザー。 「ロバート・ヘレンディーンの発明」 主…

『バーナム博物館』スティーヴン・ミルハウザー【1】

はい、ミルハウザーまつり第二弾、 『バーナム博物館』スティーヴン・ミルハウザー です。 ミルハウザーの第二短編集で、90年に出版されたものです。10編の短編を収録。巻末には、訳者・柴田元幸による気の利いた注釈、「訳者ノート」が付いています。 この…

『イン・ザ・ペニー・アーケード』スティーヴン・ミルハウザー【4】

短編集のタイトルが『イン・ザ・ペニー・アーケード』とは、よく言ったもんです。コインを投入していろんなゲームを楽しむように、めくるめくミルハウザーワールドが味わえる。 入り口を入ると、まずこってりとした中編を読むことになります。19世紀後期のド…

『イン・ザ・ペニー・アーケード』スティーヴン・ミルハウザー【3】

『イン・ザ・ペニー・アーケード』第三部。ここには、ミルハウザーの真骨頂ともいうべき幻想味あふれる作品が収録されています。では、順番にいきましょう。 「雪人間」 これは、前に読んだときもとても印象深かった作品。雪の持つマジックを、存分に味わわ…

『イン・ザ・ペニー・アーケード』スティーヴン・ミルハウザー【2】

『イン・ザ・ペニー・アーケード』の第二部。収録されているのは、「太陽に抗議する」「橇滑りパーティー」「湖畔の一日」の三つの作品。これらは、ミルハウザーには珍しい、リアリズムを基調に女性心理を描いた作品群です。なので、ミルハウザーらしい幻想…

『イン・ザ・ペニー・アーケード』スティーヴン・ミルハウザー【1】

ではでは、ミルハウザーまつり第一弾、 『イン・ザ・ペニー・アーケード』スティーヴン・ミルハウザー です。 80年代に出版された、ミルハウザーの第一短編集。全体は三部立てになっていて、第一部は三章から成る中編一編、第二・三部はそれぞれ三編の短編か…

予告

このブログで読んだ作家の新作が、去年から今年にかけていろいろと出ています。中でも、柴田元幸訳のこの三冊は気になるなあ。 リチャード・パワーズの『囚人のジレンマ』 ケリー・リンクの『マジック・フォー・ビギナーズ』 スティーヴン・ミルハウザーの『…

『アインシュタインの夢』アラン・ライトマン【4】

アインシュタインには、どこかロマンチックなイメージがありますね。その生涯やキャラクターには、物語の題材にしたくなるような魅力がある。そしてこの作品の一番の魅力は、そんなアインシュタインが見た夢を並べた、掌編集という構成でしょう。そりゃあ、…

『アインシュタインの夢』アラン・ライトマン【3】

読み終えました。早っ。まあ、その気になれば一日で読めちゃうような薄い本なんですが。 ではまた、その夢のいくつかを紹介しましょう。 「一九〇五年六月二日」の夢は、時間が逆に流れる世界。この夢には、アインシュタインを思わせる人物が登場します。 中…

『アインシュタインの夢』アラン・ライトマン【2】

もう一度おさらいしておくと、この小説は、アインシュタインの見た夢という設定で、現実とは異なる様相の時間を持つ世界が描かれた4ページほどの掌編群で構成されています。 ある世界では、時間は円を描いてくるくる回ります。ある世界では、時間が常に枝分…

『アインシュタインの夢』アラン・ライトマン【1】

今回も、文庫で読む世界文学。ハヤカワepi文庫から、 『アインシュタインの夢』アラン・ライトマン です。 作者のアラン・ライトマンは、理学博士号を持ち、ハーバード大学で物理学と天文学を教えていたそうです。要するにバリバリの理系。文庫の紹介には「…

『愛の続き』イアン・マキューアン【7】

小説らしい小説を読んだなあというのが、実感です。 緻密な心理描写、知的なユーモア、多義的な物語などなど、小説のおいしいところをたっぷり盛り込み、なおかつ、信頼できない語り手や手紙・レポートの挿入などさりげない構成上の仕掛けもあり、にもかかわ…

『愛の続き』イアン・マキューアン【6】

はい、読み終えました。19章の事件以降、物語に弾みがついて後半はほとんど一気読み。スピーディーな展開あり、またまた手紙の挿入があり、そして余韻を残す終章がありと、たっぷり堪能しました。「小説を読んだ」っていう手ごたえのある、読後感。 「21」の…

『愛の続き』イアン・マキューアン【5】

いやあ、面白い。気球事故、ストーカー、そして恋人との溝と、どんどん追いつめられていくジョー。マキューアンの心理描写は緻密で、目が離せません。 ジョーは、科学ライターですが、科学者になれず「科学物語」を紡いでいるだけの自分に引け目を感じていま…

『愛の続き』イアン・マキューアン【4】

この小説の隅々までコントロールされているような文章には、語り手ジョーが科学ライターという設定が活きています。明晰で面白い。でも、一見オーソドックスな小説に見えるところが曲者で、この一人称は、実は「信頼できない語り手」なんじゃないかという匂…

『愛の続き』イアン・マキューアン【3】

この小説は、情報を小出しにして先の展開への期待を煽るのが巧いですね。そのせいで、ぐいぐい読んじゃう。「物語」の語り口としては、とてもよくできている。 ただそこで気になるのは、やっぱり最初の「三百フィート上空からぼくらが見える」というアレです…

『愛の続き』イアン・マキューアン【2】

前回の最後に、「端正な文章で適度に読みやすい」って書いたんですが、この語り手である「ぼく=ジョー」の職業は、どうやらライターのようです。なるほど言われてみれば、「書く人」の自意識みたいなものがチラチラする文章かもしれません。 ということで、…

『愛の続き』イアン・マキューアン【1】

再開したと思ったら、勢いづいてけっこうな頻度で更新してます。この勢いをあまり落とさないように、今回は読みやすそうな本にしました。 『愛の続き』イアン・マキューアン です。 新潮文庫で370ページ程度。ボリュームも苦にならないほどだし、再開2冊目…

『フェルディドゥルケ』ヴィトルド・ゴンブローヴィッチ【7】

長らく中断したものの、うーん、読んでよかった。読めてよかった。 やっぱりポイントは、物語のど真ん中に出てくる「フルーツ・ポンチ」でしょう。あそこで、僕のエンジンが一気に動き出しました。「おお、そういうことがやりたかったのか!」ってのが、見え…

『フェルディドゥルケ』ヴィトルド・ゴンブローヴィッチ【6】

ページをめくるのが止められなくて、ついに読み終えてしました。あの10ヶ月の中断は何だったんでしょうね。もう細かくストーリーは追いませんが、11〜14章、約150ページ分をだだっといきます。 まず、ここへ来てまたしても、短い話とその前書きが挿入されま…

『フェルディドゥルケ』ヴィトルド・ゴンブローヴィッチ【5】

おおっ、転調。こりゃ、面白い! この小説半ばの第8章で、そう言いたくなるような展開がありました。必ずしも読みやすいとは言えないぐだぐだした一人語りが、ここへ来てググっと動き出します。よっ、待ってました。 ということで、今回は8〜10章まで一気…

『フェルディドゥルケ』ヴィトルド・ゴンブローヴィッチ【4】

前章の挿話を経て、また本編に戻ります。と言っても、それほど読みやすくなるわけじゃありません。やっぱり要領を得ない一人語り。まあ、じっくり行きましょう。 「6 誘惑 そして ひきつづく若さの呪縛」の章。教室にピンコが現れた、その続きから。 ピンコ…

『フェルディドゥルケ』ヴィトルド・ゴンブローヴィッチ【3】

読みづらい章に入っちゃって、わけわからんなあなんて思ってるうちに、10ヶ月が過ぎてしまいました。間、あきすぎ! でも休憩を挟んで読み返してみたら、わからないなりに、面白いんじゃないかと思えてきました。この調子なら読めるかも。ということで、第4…

またはじめます

もう、こんなブログがあったことを皆さん忘れてるでしょうね。 僕も忘れてた。 そうそう、『フェルディドゥルケ』でした。何かややこしい章に入ったところで、忙しかったり体調壊したりで、読む気力が続かなくなっちゃって、書く気力もなくなっちゃって、ほ…