『バーナム博物館』スティーヴン・ミルハウザー【6】


『バーナム博物館』の収録作品は大きく2種類に分けられると思います。
物語に関する物語…「シンバッド第八の航海」「アリスは、落ちながら」「探偵ゲーム」「バーナム博物館」「クラシック・コミックス #1」
濃密な幻想小説…「ロバート・ヘレンディーンの発明」「青いカーテンの向こうで」「セピア色の絵葉書」「雨」「幻影師、アイゼンハイム」
まあ、厳密に言えば、両方の要素が入り混じってたりもするんですが、前作『イン・ザ・ペニー・アーケード』に比べると、語りの仕掛けが凝らされた作品が多いのが特徴かな。
それにしても、短編集のタイトルが『バーナム博物館』ってのは、よく言ったもんです。博物館の展示室をめぐるように、10の作品世界が味わえる。個々の部屋には、ところ狭しとモノが陳列されています。ミルハウザーは、それらを逐一列挙していく。何度も書いていますが、これがミルハウザーの一番の特徴じゃないかなと思います。

バーナム博物館のギフトショップでは、古めかしいセピア色をした人魚や海龍の絵葉書や、ぱらぱらページをめくると空飛ぶ絨毯が宙に浮かび上がる豆本、さまざまな展示室のカラーミニチュアが見えるのぞき窓つきのボールペン、一度弾むとそのまま空中にとどまっているアラビア製の不思議なゴムボール、虎、象、ライオン、北極熊、キリンなどとりどりの形のシャボン玉が作れるダークブルーの溶液を入れた小壜、無限に変化しつづける龍の姿を映し出す中国製の万華鏡、蠱惑(こわく)的な万像鏡や幻姿機、動く絵を描くことができる生きたペイントを入れた箱、一度転がしたらけっして止まらない、黒い森(シュヴァルツヴァルト)で採れた木でできたラッカー塗りの木玉、その前に置かれた物質と同じ形と色を帯びる無色のゼリー状物質を入れた壜、日光を直接浴びると消えてしまうきらきら光る赤い箱、家々を抜け庭や屋根を越えて飛ぶ日本製の紙飛行機、絵の部分に薄紙がかぶせてあって、それを持ち上げるたびに違った絵が出てくるフィンランド製の絵本、空中に絵を描けるよう特殊加工した水彩絵具セットなどを売っている。

こうした列挙癖を、僕は「ミルハウザーのショーウィンドウ」と呼びたい。ひしめき合う細部が集まって、一つの世界を形作る。そこでは、見ることと見られること、見せることと見せられることが交錯し、入れ子のように細部へさらに細部へと視線を誘います。
ちなみに、僕のお気に入りベスト5は、以下の通り。
1「アリスは、落ちながら」
2「シンバッド第八の航海」
3「ロバート・ヘレンディーンの発明」
4「幻影師、アイゼンハイム」
5「バーナム博物館」
作品集の最初の3編が面白すぎたので、後半の作品はちょっと損してますね。読む順番が違ってたら、もう少し印象が変わったかも。


ということで、『バーナム博物館』めぐりは、これでおしまい。
次はいよいよ、ミルハウザー最新作『ナイフ投げ師』です。