『空気の名前』アルベルト・ルイ=サンチェス【3】

うわー、すごいすごい。これは読ませるなあという章に突入しました。これまでで一番長い章ですが、僕の好みドンピシャリです。もう、舌なめずりしながらたっぷり引用したい。なので、今回はこの章だけでいきます。 「VII 水の中の月」。 まず、この章の冒頭。…

『空気の名前』アルベルト・ルイ=サンチェス【2】

前回、表紙が地味だと書きましたが、考えてみれば『空気の名前』というタイトルも地味ですね。もやーっとしてるというか。でも読んでみると、この「もやーっ感」が作品の魅力になっている。 ではいきます。 短い章が続くので、「III 静かな嵐」「IV 燃える思…

『空気の名前』アルベルト・ルイ=サンチェス【1】

白水社から刊行されている「エクス・リブリス」は、未知の作家の海外小説を次々と訳してくれるという魅力的なシリーズ。ということで、今回は、つい先日その「エクス・リブリス」から出た小説を読みます。 『空気の名前』アルベルト・ルイ=サンチェス です…

『昨日のように遠い日 少女少年小説選』柴田元幸 編【5】

いやあ、愛おしいアンソロジーでした。カバーの紙の手触りも心地よく、上品な装丁も非常に魅力的。収録作品はどれも素晴らしく、柴田さんの目利きっぷりがよくわかります。何度も取り出しては眺めたくなるオブジェのような短編ばかり。 これは、箱ですね。子…

『昨日のように遠い日 少女少年小説選』柴田元幸 編【4】

この本を読もうと思ったそもそものきっかけはアレクサンダル・ヘモンだったわけですが、終盤にきてついにヘモンが登場。カモン、ヘモン。 さあ、いきます。 「島」アレクサンダル・ヘモン ヴィヴァンテの「灯台」同様、これまた少年の一人称で語られる「子供…

『昨日のように遠い日 少女少年小説選』柴田元幸 編【3】

「少女少年小説」と銘打っているわけですから、少女が出てくる話もないとね。ということで、少女を主人公にした作品が二編続きます。 では、いきます。 「修道者」マリリン・マクラクフリン 主人公は、第二次性徴を迎えようとしている女の子。彼女は、自らの…

『昨日のように遠い日 少女少年小説選』柴田元幸 編【2】

柴田セレクションだからといって、英米文学だけから選ばれているわけじゃないんですね。ロシアのナンセンスな作家が登場します。そして、そのあとに続くミルハウザーもかなりトリッキー。 では、つづきを。 「トルボチュキン教授」ダニイル・ハルムス ハルム…

『昨日のように遠い日 少女少年小説選』柴田元幸 編【1】

『ノーホエア・マン』がすごくよかったのでアレクサンダル・ヘモンの他の作品も読みたいなと探してみたら、アンソロジーに一編収録されているとか。ということで、そのアンソロジーを入手。まだ、ヘモン作品にはたどり着いてませんが、これ、すごくいいんじ…

『バカカイ――ゴンブローヴィチ短篇集』ヴィトルド・ゴンブローヴィチ【4】

まず、タイトルですね。『バカカイ』って、巻末の「訳者メモ」によれば、作者が暮らしていたブエノスアイレスの街路の名前だとか。要するにあまり意味のないタイトルなわけですが、それでも僕は「馬鹿かい?」と読んでみたくなる。なんせ、どの短編を読んで…

『バカカイ――ゴンブローヴィチ短篇集』ヴィトルド・ゴンブローヴィチ【3】

読み終えました。では、後半の3編を。 「裏口階段で」 外務省に勤めながらエレガントな女性には興味を持たず、もっぱらがさつな女中や下女に魅かれる男が主人公。美人に対して「きれいなブロンドだなあ」と見とれるような調子で、女中の手を「マストドンの…

『バカカイ――ゴンブローヴィチ短篇集』ヴィトルド・ゴンブローヴィチ【2】

ゴンブローヴィチの作品を読んでいると、筒井康隆やらモンティ・パイソンなど、ブラックユーモアの名手の名前が次々と連想されます。しかも、この短編集に収録されている作品は、1928〜38年に書かれたものだとか。やるなあ、ゴンブロ。 では、続きです。 「…

『バカカイ――ゴンブローヴィチ短篇集』ヴィトルド・ゴンブローヴィチ【1】

『エコー・メイカー』が、ガッツリした長編だったので、今回は短編集を読みます。こちら。 『バカカイ――ゴンブローヴィチ短篇集』ヴィトルド・ゴンブローヴィチ です。 以前読んだ『フェルディドゥルケ』のヴィトルド・ゴンブローヴィッチです。表記が「ゴン…

『エコー・メイカー』リチャード・パワーズ【おまけ】

リチャード・パワーズ『エコー・メイカー』、思いのほかじわじわとくる作品で、読み終えてから何日も経ってるんですが未だにいろいろ考えちゃったりします。それを前回はとりあえずえいやっとまとめてみたんですが、様々な要素が複雑に絡み合った作品なので…

『エコー・メイカー』リチャード・パワーズ

読んでる途中で書こうと思ってたんですが、思いのほかぐいぐい読んじゃったので、今回は「読み終えたので書いておく」です。その本とは、去年翻訳が出たこれ。 『エコー・メイカー』リチャード・パワーズ です。 リチャード・パワーズ最新作。全米図書賞受賞…

『青い脂』ウラジーミル・ソローキン【6】

いやあ、凄かった。弩級とか破格とか、そういうレベル。莫言やレイナルド・アレナス、ヴィトルド・ゴンブローヴィッチなんかにも通じる過剰さ。「やりすぎ文学」と呼びたいです。 物語は全体で3つのパートに分かれています。最初のパートは、2068年、遺伝子…

『青い脂』ウラジーミル・ソローキン【5】

読み終わりました。いやあ、ラストスパートはすごかった。もうどこまで行っちゃうのーって感じで、怒濤の展開。脳みそが爆発しそうになります。 ほいじゃ、いくぜ! まずは、スターリンとフルチショフのシーンから。場面がフルチショフのベッドルームに移っ…

『青い脂』ウラジーミル・ソローキン【4】

タイムマシンで1954年へ。ということで、ここでまた場面が変わります。そうすると、前回までの情報が後出しで更新される。どうやら、遺伝子研や大地交者合教団のパートは2068年の出来事だということがわかります。さらに読み進めると、この作品が歴史改変も…

『青い脂』ウラジーミル・ソローキン【3】

おっと、ここで転調。あの読みづらい書簡形式でずっといくのかと思いきや、文体が突如三人称にスイッチします。でも、終わってしまえばあの文体が妙に恋しく思えてきたりして。 あ、あと、前々回、ボリスの職業を言語学者と書きましたが、実際は「生命文学者…

『青い脂』ウラジーミル・ソローキン【2】

前回、設定まわりをざーっとさらっておいたので、今回はするするいけるかなと思ったら、とんでもなかった。さらに新たな仕掛けが登場。ボリスの手紙に、文豪クローンたちが執筆した作品が挿入されるという展開に。これがまた奇っ怪なものばかりで、今回はそ…

『青い脂』ウラジーミル・ソローキン【1】

読書モードになってるんで、どんどんいっちゃおうかな。チェコの次はロシアだろ。どうせならすごそうなヤツを読みたいな、ということでチョイスしました。今回は、最近出たばかりのほやほやの新刊。ガイブン界隈では結構話題になってる小説、 『青い脂』ウラ…

読み終えたけど

ここ3週間ネットがつながらなくなっちゃってたんですが、こういうときに限って「読んでる途中で書いてみる」をやってみたくなるような超絶面白本を読んでしまいました。なので、あとでアップしようと思って書き溜めていたものを、何日かに分けて順にアップ…

『あまりにも騒がしい孤独』ボフミル・フラバル【4】

すっかり慣れてしまった悪夢、そんな感じがする小説でした。フラバルのタッチは決してリアリズムではありませんが、これ見よがしなぶっ飛んだ奇想で押してくるようなタイプでもありません。ゴミ、下水、糞便などなど、汚物まみれの世界を描きながら、それが…

『あまりにも騒がしい孤独』ボフミル・フラバル【3】

読み終えました。おおすごい、すごい。「6」〜「8」章。地下室で鬱々としながらも気ままにやっていたハニチャの物語がここで大きく動くんですが、そこからの展開は読み応えがあります。面白いよ。 「6」の章。 ハニチャはある日、彼の地下室にある機械と…

『あまりにも騒がしい孤独』ボフミル・フラバル【2】

どうもこの作品は、語り手であるハニチャひたすら自分語りをするというスタイルで書かれているようです。ハニチャの目を通して描かれる世界は、どこかグロテスクに歪んでいる。今回読んだあたりには、そんな場面が頻出します。 では、続きです。 「3」の章。…

『あまりにも騒がしい孤独』ボフミル・フラバル【1】

ボスニアの次はチェコスロバキアにいきましょう。バルカン半島からぐぐっと内陸部へ。この国もまた複雑な政治状況を抱えてきた歴史があるんですが、そういう国の小説を読みたい気分なんですよ。 ということで、今回はこれ。 『あまりにも騒がしい孤独』ボフ…

『ノーホエア・マン』アレクサンダル・ヘモン【7】

文章を味わう、久しぶりにそんな読み方ができる小説を読んだなあという実感がありました。前もちょっとだけ触れましたが、アレクサンダル・ヘモンは、母国語ではなく習得した英語で小説を書くことを選んだ作家です。だから、一語一文に繊細にならざるをえな…

『ノーホエア・マン』アレクサンダル・ヘモン【6】

読み終えました。うーん、不思議な読後感。何故かというと…、ということで最終章。 「7 ノーホエア・マン/キエフ、1900年9月―上海、2000年8月」。 いきなり時代は1900年に遡ります。そして、エヴゲーニイ・ピック、通称キャプテン・ピックという謎めいたス…

『ノーホエア・マン』アレクサンダル・ヘモン【5】

面白いもんだからなかなか本を閉じられず、二章分読んじゃいました。なので、一気にいっちゃいます。 「5 深い眠り/シカゴ、1995年9月1日/10月15日」。 守衛は眠りこけ、椅子からすべり落ちそうになりながらホルスターの拳銃に指をかけていた。プローネク…

『ノーホエア・マン』アレクサンダル・ヘモン【4】

アレクサンダル・ヘモンは、サラエボ出身で、20代のときにジャーナリストとしてアメリカに滞在中、ボスニア戦争が勃発。帰れなくなっちゃって、それ以降、英語を習得しアメリカで作家になったという経歴の持ち主だそうです。なるほど、と思いながらも、ひと…

『ノーホエア・マン』アレクサンダル・ヘモン【3】

前章にはこう書かれていました。「私はウクライナに行っていないので、彼の人生のこの部分については、だれかほかの人間に語ってもらわなければならない」。ということで、第三章では「ほかの人間」によってヨーゼフ・プローネクのキエフでの日々が語られま…