2006-01-01から1年間の記事一覧

『どんがらがん』アヴラム・デイヴィッドスン【2】

前回書き忘れてましたが、デイヴィッドスンはアメリカ人作家です。チラチラ見える異国趣味や人種問題に対する関心は、アメリカ人であることを逆から照らすようなものじゃないかなという気もしますが、どうなんでしょう。 ということで、続きを。 「さもなく…

『どんがらがん』アヴラム・デイヴィッドスン【1】

「奇妙な味」と評される短編群があります。ジャンルはミステリ、SF、ファンタジー、ホラー、もしくはその近辺ってことになるのかな。まあ、無理矢理ひとことで言っちゃえば「不思議なお話」ってことです。僕は、昔からこの手の話が好きなんですよ。 という…

予告

それにしても、『酒国』めぐりは長かった。 ということで、次回は、アヴラム・デイヴィッドスンの短編集『どんがらがん』を読むことにしました。 これは、河出書房から出ている「奇想コレクション」という、魅力的なシリーズの1冊。奇想…。どのくらいぶっと…

『酒国』莫言 【13】

読み終えるまで、ずいぶんと時間がかかりましたが、ヒジョーに面白かった。莫言は、「中国のガルシア・マルケス」なんて言われてるらしいけど、文体の饒舌さはむしろ筒井康隆あたりを連想しました。いや、過剰なのは文体だけでありません。4つのパートが絡…

『酒国』莫言 【12】

ようやく読み終えました。 「第九章」では、莫言が酒国入りする日も近づいてきて、書簡のやりとりも熱を帯びてきます。李くんの小説は、「酒城」というタイトル。酒国市の歴史をひも解くような内容です。そして、丁鈎児(ティン・コウアル)は…。これは言わ…

『酒国』莫言 【11】

「第八章」、そろそろ終幕に向かいます。なので、ここはさくさく行っちゃいましょう。 今回は、「莫パート」「李パート」から始まります。莫言先生は、酒国市で行われる「第1回猿酒祭」の期日に合わせて、酒国市入りするつもりのようです。 そして、「小説…

『酒国』莫言 【10】

では、「第七章」、行きましょう。 「丁パート」。女性運転手が、一尺酒楼の小人、余一尺(ユイ・イーチー)と寝ていたという事実にショックを受けた丁鈎児(ティン・コウアル)は、女をなじります。ところが、その言葉に女は逆に逆上し、「自分は何だと思っ…

『酒国』莫言 【9】

こんなはずじゃあなかったんですが、更新、ずいぶん間があいてしまいました。忙しくて、読むのも書くのもできなかった。ということで、忘れちゃってる人のために、ざっと、ここまでの話をおさらいしておきます。 まず、この小説は4つのパートに分かれていま…

『酒国』莫言 【8】

「第六章」に入ります。例のごとく「丁パート」から。 前章で丁鈎児(ティン・コウアル)を罠にはめた女性運転手ですが、これまで彼女は野性的な魅力をたたえた女性として描写されてきました。だから、彼もコロっと引っかかっちゃったわけですが、この章では…

『酒国』莫言 【7】

「第五章」に行く前に、前章の「丁パート」、最後の部分を振り返っておきます。 トラックのラジエーターを冷やすため水を汲みに行ったっきりなかなか戻ってこなかった丁鈎児(ティン・コウアル)を、女性運転手が罵るシーン。かなり気の強い女性のようで、言…

『酒国』莫言 【6】

「第四章」、まずは、「丁パート」です。 二日酔いで目覚めた丁鈎児(ティン・コウアル)は、街をぶらつきます。そしてそこで、第一章に登場したトラックの女性運転手と再会し、そのトラックに乗せてもらうことになる。 この章は、物語的にはあまり展開がな…

『酒国』莫言 【5】

「第三章」の続き、酒国市の大学院生・李一斗くんの書簡、「李パート」です。 李くんは、莫言の『赤い高粱』という小説に登場するエピソードに絡めて、尿と酒の関係についてぶち上げます。 童子の尿は地球上もっとも神聖神秘な液体であり、その中にはどれほ…

『酒国』莫言 【4】

では、「第三章」へいきます。これからは便宜上、丁鈎児のパートを「丁パート」、李一斗の書簡を「李パート」、莫言の書簡を「莫パート」、李一斗による小説のパートを「小説パート」と呼ぶことにします。 で、まずは「丁パート」から。前章で早くも嬰児の丸…

『酒国』莫言 【3】

徐々に面白くなってくるタイプの小説と、最初っから何かすごいことになりそうな予感がビリビリする小説があるとすれば、『酒国』は後者でしょう。まだ物語が始まって間もないのに、反応したくなるところがありすぎ。 ということで、なかなか進みませんが、「…

『酒国』莫言 【2】

「第二章」にいきます。またしても、4つのパートに分かれています。 まず、第1節。前章の第1節、丁鈎児(ティン・コウアル)のパート、事件について炭鉱の共産党委員会書記と鉱山所長に問いただそうとした、その続きです。 二人は丁鈎児に対し、食事をし…

『酒国』莫言 【1】

今回は、 『酒国』莫言 です。 「特捜検事丁鈎児の冒険」とサブタイトルがついています。「丁鈎児」は、中国語で「トランプのジャック」を指す名前だとか。 ちなみに莫言は、「モーイエン」と発音します。日本読みだと「ばくげん」。「中国のガルシア=マル…

『童話・そよそよ族伝説』別役実 【まとめ】

難儀しました。決してつまらなくはないんですが、どうにもつかみどころのないお話で、どう伝えたもんかよくわからない。結局、あらすじを追うだけになっちゃいましたが、あらすじを追ったところで、この物語のこのもやもやした感じは伝わらないわけで…。ジレ…

『童話・そよそよ族伝説 (3)浮島の都』別役実 【2】

アミ、サト、片目のクニは、あまんしゃぐめの勧めで、またしても旅に出ます。今回は、「なるかみのへづり道」→「やみの岩戸」→「よもつひらさか」という、夜見の国の近くを抜けるルート。一歩あやまれば、夜見の国へまっさかさま、死者の仲間入りをするとい…

『童話・そよそよ族伝説 (3)浮島の都』別役実 【1】

はい、第3巻 『童話・そよそよ族伝説 (3)浮島の都』別役実 です。 今回は、施療院島から始まります。どうやら、「うつぼ舟」から始まる諸々のできごとの背後には、夜見の国のスサノオと大氏王朝のアシハラノシコオとの「約束」があるということが、施療…

『童話・そよそよ族伝説 (2)あまんじゃく』別役実 【3】

いきなりですけど、読み終えちゃいました。なので、今回はだだだっといきます。 「六 海の向うの子供・夜の底の子供」「七 猫一族」「八 葦原の海」「九 五郎森」の章をば。 ツモリ老人、アミ、モモソヒメと赤ん坊、アミの友人サト、うらひくの村の片目のク…

『童話・そよそよ族伝説 (2)あまんじゃく』別役実 【2】

「三 風の森」の章では、「葛城のからす使い」ハセオが登場し、視点がまたしても変わります。しかしそれよりも意外な人物が、「四 いかだ舟」の章で登場します。その人物とは、前巻『うつぼ舟』に出てきたアヤト老人です。 アヤト老人は、「ふせの泊」に暮ら…

『童話・そよそよ族伝説 (2)あまんじゃく』別役実 【1】

シリーズ第2巻。 『童話・そよそよ族伝説 (2)あまんじゃく』別役実 です。 「一 みずがきのみや」の章から。 ミマキイリヒコは、シキのみずがきのみやの奥深いところにひっそりと身を横たえて、ゆるやかに五感をひらき、彼等のはるかな祖先が出発してき…

『童話・そよそよ族伝説 (1)うつぼ舟』別役実 【4】

いよいよ、クライマックスまできました。では、「十 捨場」「十一 かたしま」の章。 「捨場」とは、病人や他所者を泊める場として機能している地域のことを指すようです。第二章では、「領内にある領外」と説明されていました。これ、面白いですね。マージナ…

『童話・そよそよ族伝説 (1)うつぼ舟』別役実 【3】

「六 施療院島」「七 ひきのうんばあ」の章。 はっきりとした説明はありませんが、「めくらことば」とは、どうやらテレパシーみたいなもののようです。ひきのうんばあは、島の外にいるアミにめくらことばで語りかけてきます。 ひきのうんばあによれば、うつ…

『童話・そよそよ族伝説 (1)うつぼ舟』別役実 【2】

さあ、「三 おおうみ」の章です。だんだん異世界ファンタジーっぽい雰囲気になってきます。 舟はその時ようやく、虎姫岬前の葦の群生地をぬけて、大沼から、見わたすかぎりの水面をたたえるおおうみへ、ゆったりと滑り出しました。小さく寄せる波が舟端をた…

『童話・そよそよ族伝説 (1)うつぼ舟』別役実 【1】

今回は、日本の小説。 『童話・そよそよ族伝説 (1)うつぼ舟』別役実 です。別役実の書くものは、戯曲もエッセイも面白いんですが、童話作品も独特の味わいがあっていいんですよ。この「そよそよ族伝説」シリーズは、1『うつぼ舟』、2『あまんじゃく』、…

予定

『奴婢訓』に続き、前々から読んでみたかった復刊ものを、近々読みたいと思ってます。 別役実「そよそよ族伝説」シリーズ。 全3巻というボリュームですが、そーゆー本を読むブログにしたいので、これはぴったりじゃないかなと。 まあ一見長そうに思えても、…

『奴婢訓』スウィフト 【5】

こうして『奴婢訓』を読み終えましたが、スウィフトの意図は、召使いたちの悪癖を風刺することにあったそうです。いわゆる「イヤミ」ですね。クスリとも笑わずに、辛辣なことを言ってみせる。 召使は、一見真面目で礼儀正しく見えますが、腹の中には企みを隠…

『奴婢訓』スウィフト 【4】

「細則篇」の「第六章 家屋並びに土地管理人」「第七章 玄関番」。 最初に断るのを忘れてましたが、この作品、未完です。なので、この2つの章は創作メモと思しき数行の断片があるだけです。「玄関番」のほうは、ちょっと面白いんですが、たった3行なのでは…

『奴婢訓』スウィフト 【3】

「細則篇」の「第三章 従僕」。 自分は嘗て自ら従僕の一人たるの光栄を持ったものであるから、このつとめには真実深い尊敬の念を抱いている。その光栄をおろかしくも棄て去り、税関などに下らぬ職を求めるの愚を自分は演じてしまった。とまれ、従僕諸君が幸…