『童話・そよそよ族伝説』別役実 【まとめ】


難儀しました。決してつまらなくはないんですが、どうにもつかみどころのないお話で、どう伝えたもんかよくわからない。結局、あらすじを追うだけになっちゃいましたが、あらすじを追ったところで、この物語のこのもやもやした感じは伝わらないわけで…。ジレンマ。
主人公のアミとツモリ老人は、あちこち旅をします。1巻ではふせの泊を抜けて施療院島へ、2巻では猫沼を抜けて八重沼へ、そして3巻では夜見の国めぐり。でも、旅の道筋を追ったところで、旅をしているときの気分は伝わらないわけです。
なので、周りの風景を見てみましょう。僕にとってこの物語の魅力は、何と言っても「沼」というロケーションにありました。湿地帯。もやもやした話なので、何度も立ち位置をはっきりさせようとしたんですが、その度にずぶずぶと沈み込んでいきそうな、そんな物語でした。では、どう読めばよかったんでしょう? たぶん、考えるより先に足を動かす。ささささっと風のように読む。理解しようとして立ち止まるのではなく、風の動きに身を任す。そうすれば、水のようにいろいろなことが染み込んできたんじゃないかなと、今になって思います。僕は、立ち止まり過ぎたせいで、どう読めばいいのかわからなくなっちゃったんですね。


この物語は、一応の決着を見せましたが、最後に大きな謎が残っています。それは、タイトル。「そよそよ族」って誰だ?
物語の中には、「そよそよ族」という単語は出てきません。1巻でそれらしき話題は出てきますが、種族の名前としては一度も登場しない。ですが、こうして読み終えてみると、不透明な「沼」に生きる種族。一つの結論にしがみつかず、葦原を渡る風のように、「わからない」ことを「わからない」ままに抱え、言葉にならないものを「読み」、迷い続けている種族という気がします。それは何だか、僕ら日本人によく似ています。「アマテラスヒメ」や「スサノオ」が登場することからもわかるように、この物語は日本神話をベースにしているようです。「そよそよ族」とは、僕らの祖先かもしれません。


ということで、『童話・そよそよ族伝説』については、これでおしまい。
次回は、一度読んでみたかった莫言という人の小説、『酒国』にいくつもりです。