『悪戯の愉しみ』アルフォンス・アレー【4】


そんなに時間をかけて読むようなタイプの本じゃあなかったのに、更新に手間取ってしまいました。まあ、それはそれとして。
ここに収録されている作品を、訳者の山田稔さんは「コント」と呼んでいます。フランス語で「短編小説」という意味ですが、なるほど、コントと言ったほうがぴったりくるような、笑える寸劇めいた作品ばかりです。
アレー作品では、命は軽く、愛は醜く、国家や社会は愚かしく描かれます。「黒いユーモア」と呼ばれる由縁ですね。見事なのは、それを軽妙に、さらさらっと描いているところ。逆説や皮肉や奇想を駆使して、まるでパーティ・ジョークのように仕上げる。とんでもないことを書きながら、ジェントルな姿勢は崩さない。おシャレなんですよ、書き方が。
その根底には、辛辣な人間観、もっと言っちゃうと人間不信の感覚があるように思います。彼の作品の中では、人間はストーリーを展開させるチェスの駒のように扱われています。人間性なんてものには、見向きもしないんですよ。
アレーのような、人間がモノのように描かれる作品は、フランス文学にチラチラと見つけることができます。アルフレッド・ジャリ、レーモン・ルーセルボリス・ヴィアンローラン・トポールなどなど。このあたりは、みな僕好みの作家なんですけど、アレーは短編ばかり書いているところが、特徴的かな。
訳者解説によれば、「いわゆる純文学作家ではなく、いまでいうコラムニスト、コント作家だったのだ」とのこと。つまり、日々の暮らしや時代の空気の中で感じたちょっとした思いつきを、その都度ささっと短編に仕立て上げる、というような感じでしょうか。ホントに「ちょっとした」話ばっかりなんですよ。人間をじっくり描くような「文学」という権威には背を向けた、アブクのようなバカ話ばかり。それがアレーの魅力だと思います。


一応、おすすめ作品を1ダース挙げておきましょう。順位はなし。

「小さなブタ」
「お返し」
「単純な人々」
「親切な恋人」
「小さな生命を大切に」
「ひげ」
「恰好をつけるために」
「涙」
「一九〇〇年のためのエッフェル塔利用法」
「急がずに」(←これは紹介してないけど)
「二十二号室の目覚め」
寡婦の息子」

では、おしまいです。