『ダーク・タワー II ―運命の三人―』スティーヴン・キング【4】


はい、読み終えました。最後のパート「押し屋」はめまぐるしく、息もつかせぬ展開です。とりあえず差し迫った問題は3つ。ローランド自身の病気、隠れているデッタ、3人目の仲間は誰か。さあさあ、タイムリミットが迫る中、これらをローランドがどう解決するのか?


では、いきます。まず、ローランドが「押し屋」の中に侵入した冒頭で、早速この人物の正体が明かされます。その名はジャック・モート。彼は、別のことに気を取られていて、ローランドが侵入したことに気づきません。

ジャック・モートはなにも感じなかった。
少年に意識を集中していたからである。
ジャック・モートは、この二週間、その少年を監視していた。
今日、ジャック・モートはその少年を突き飛ばすつもりだった。

ワァオ、です。この少年とは、何と前作『ガンスリンガー』に登場した少年、ジェイクです。運命の扉は、とんでもないところにローランドを導いたもんです。ジャック・モートは公認会計士ですが、実は秘かに殺人を趣味としているという、冷酷な人物。殺人と言っても、銃や刃物を使うわけじゃありません。道路に向けてちょっと背中を押す、といったやり方。「押し屋」たる由縁です。デッタの剥き出しの悪意よりも、こういうほうがイヤですね。人を死に至らしめるときの心理的抵抗なさがイヤ。「日常に潜む悪意」みたいなものを感じさせます。
結局、ジャックはこのとき、ジェイクを突き飛ばすのに失敗しますが、そのあとのことは書かれていません。そこが知りたいのに、空白がある。それに、ジェイクの話によれば、彼は黒衣の男によって道路に突き飛ばされたはずです。しかし、ジャック・モートは黒衣の男ではありません。何だかいろいろつじつまが合わない。このあたりどうなってるのか気になりますが、物語はそんなことは置き去りにして、ぐいぐい進んでいきます。
それからついでに言うと、ジャック・モートは旅の仲間ではないようです。これは、むしろよかった。こんな殺人鬼と旅したくないでしょ。でも、扉は何かしらの運命的な理由があって、この人物につながってるはず。つまり、ジャックにもそれなりの役割があるはずなんですよ。
さて、ローランドはジャックを操り、次々と成すべきことを行っていきます。そのせいで、真面目な会計士の風貌でありながら、彼の姿は何となく奇妙なものに映る。例えば、デレヴァンという警官の目には、こんな風に見えたようです。

九年後、ある晩、かれは息子(十八歳で進学を控えていた)といっしょに映画を見に行った。始まって三十分ほどしたところで、かれは席から立ち上がってわめきたてた。
あいつだ! あれはあいつだ! 紺のスーツを着ていた野郎だ! クレメンツの店で――」
(中略)あの日、パトカーに乗ったふたりのところへ寄ってきて盗難を訴えた紺のスーツの男は、その映画の主演スタートは似ても似つかなかったが、演じている役のぶっきらぼうなセリフ回しが同じだった。また、横柄ながら、どこか上品な物腰も似ていた。
その映画のタイトルは、あらためて言うまでもないだろうが、『ターミネーター』である。

なるほど、あの映画のシュワルツネガーも、余所の世界からやって来てました。どこか現代にそぐわない違和感みたいなものを与える、重々しい口調。口語表現に慣れてないような、丁寧だけどどっかズレてるような喋り方といったところでしょうか。
ところで、これ、本筋にはまったく関係ないエピソードで、この警官もさして重要な人物ではなさそうです。それなのに、わざわざ息子の年齢まで書き記すところが、キング流。このくどさが、物語をぶ厚いものにしているんだと思います。内容的にも、物理的にも。
操られるジャックは、彼なりのやり方でローランドに抵抗しようとします。そして、業を煮やしたローランドは、ジャックの意識に語りかける。

よく聞け、ガンスリンガーはモートに言った。時間がない――おまえに語りかけるだけでなく、すべてのことに対してだ――から、一度しか言わん。おれの問いかけに答えなければ、おまえの右の親指を右目に突っ込むぞ。そして目玉をえぐリ出して、鼻くそのようにこの乗り物の座席になすりつけてやる。おれは片目があればじゅうぶんだ。それに、そもそもおれの身体、おれの目玉ではないからな。

「鼻くそのようになすりつけてやる」って、絵を想像するとゲッとなります。でも、この非情さはシビれますね。ガンスリンガー西部の男。これまで様々な場面で命をやり取りしてきた男の非情さです。こんなこと言われたら、言うこと聞かないわけにはいかないでしょ。ジャックは殺人鬼とは言え、しょせんこそっと背中を押す「押し屋」。格の違いは明らかです。
ということで、ローランドに操るジャックがどんな行動を取るのかは、読んでのお楽しみ。怒濤の展開が待ってます。


ラスト、「ファイナル・シャッフル」のパートでおしまいです。結局、異世界に残ったのは3人。クスリが抜けたエディと、オデッタ&デッタの人格が統合され新たな人格として生まれ変わったスザンナ、そして我らがガンスリンガー、ローランド。ようやく、旅のとば口まできたといったところでしょうか。


ファンタジーと言いながら、この第2部の舞台は、半分がニューヨーク。犯罪ものやサイコサスペンスの要素がふんだんに盛り込まれ、非常にテンポがよかったです。いかにもキングらしい、大活劇が繰り広げられる。さらに、エディやオデッタのこれまでの人生もきっちり描かれていて、読みごたえがある。さらにさらに、前作に登場したジェイクが一瞬登場することからもわかるように、様々な運命の糸が絡まり合ってきて、このシリーズの凝った構成がうっすらと見えてきます。いや、まだうっすらですが、この先、期待できそうです。
ということで、『ダーク・タワー II ―運命の三人―』、読了です。