『天の声・枯草熱』スタニスワフ・レム 【9】


前章が気になるところで終わったんですが、なかなか続きを読む暇がありませんでした。
さあ、13章〜16章までいきます。


このあたりは山場と言ってもいいでしょう。これまでゆっくりとしか語られなかったのに比べると、事態は急速に展開します。動きのある章です。
星からのメッセージがもたらしたある恐ろしい発見。13章ではその危険性が、14章ではそれを検証する実験が、15章ではことの顛末が描かれます。そして、16章で教授はいつものようにうねうねとした思索の日々に戻ります。
この本は、ホガース教授による回想録という形で書かれています。したがって、これまでの章で、教授が科学や技術の危険な側面をしきりにくり返していたのは、この事件のことがずっと頭にあったからでしょう。


「人類と蟻は連帯できない」と、教授は言います。またしても、蟻! これは、最初のほうに出てきた、「哲学者の死体に群がる蟻」の話の発展形ですね。

かりに、宇宙と交信するには、なんらかの理由があってどうしても蟻を皆殺しにする必要があるとわかったら、きっと蟻を犠牲にする「価値がある」と考えるにちがいない。ということは、発展の段階にあるわれわれは、だれかの目から見れば、つまりその蟻だということもありえる。

「だれかの目」というのは、ニュートリノのメッセージの発信者のことです。と同時に、権力を握る者、つまり合衆国政府を暗に指しているような気もします。
これまで読んできたことから容易に想像がつきますが、教授は徹底して権力嫌っています。そして科学や技術がためらわずそれに力を与え、暴走させるだろうと考えています。であるならば、「発見」を権力が利用しようとしたら、力を持たないものを皆殺しにすることだってありえるということです。
蟻と連帯できないだけでなく、同じ人間同士ですら連帯できない。人と人とがわかり合えないのに、まったく未知の「星からの手紙」の発信者のことなんか、わかるわかけがありません。

まず最初に人間を研究する必要があったのだ。先決問題はなによりもまずそれにあった。われわれは人間の研究をやってこなかったから、ろくに人間のことを知らずにいる。

人類は、この「手紙」を受け止めるに値しないし、その力もない。そういうことです。


この手記は、マスターズ・ヴォイス計画の挫折までを記録しているはず。このあとは、それが語られると思われます。
ということで、残りはあとわずかですが、今日はここ(P196)まで。
次は、すべて読み終えた段階で書くことになると思います。