『天の声・枯草熱』スタニスワフ・レム 【6】

ここから、短めの章が続きます。
ということで、今日は5・6章まとめていっちゃいます。


まず、5章。
ここらで「マスターズ・ヴォイス計画とは何か」をきちんと押さえておきましょう、っていうのがこの章。

マスターズ・ヴォイス計画は、いわゆる〈星からのメッセージ〉と称されるものの全面的な研究であり、それと同時にその解読の試みでもある。このメッセージは、いまだ認知されていない地球外文明に属す、単一もしくは複数の存在が送りだした一連の信号である公算が極めて高い。

これは、〈計画〉の公式文書の冒頭部分です。今まで読んできて何となくわかった気になってたけど、こうやってきちんと記述されるのはこれが最初ですね。
メッセージの内容を解読し、最終的にはその未知の存在にたどりつきたいわけですが、じゃあどうやってそのニュートリノのメッセージを解読すればいいのでしょう? おそらくコンピュータを使って計算とかするんでしょとは思いますが、文系の僕にはそれ以上の具体的なイメージはわきません。

「手紙」の研究を開始するためには、なにかから手をつける必要があったが、実はそこがいちばん泣きどころだったのだ。

なーんだ、やっぱりね。どうしたらいいのか、誰もわかんないんですよ。そこで、この「手紙」がどんな種類の信号かというところから考えるわけです。
何らかの言語によって書かれた報告書かもしれない。これは、非常に素朴な発想ですね。もしくは、テレビのように画像を送っているのかもしれない。もちろん、音や匂いに変換できるものかもしれない。昔のSFだったら、たぶんここいらへんで手を打ってたでしょう。しかし、可能性としてはそれでもまだ十分じゃない。
何かの「生産方法」「製造過程」を示したものかもしれない。これは、命令を実行するプログラムみたいなものでしょうか。さらに、数学的なコードで表された「物」かもしれない。つまり何かの物質を言語ではなく記号で表してるんじゃないかと。いわゆるコンピュータ言語みたいなものかな。
さあ、ややこしいことになってきました。


そして6章。
冒頭の部分です。

屋上に着陸してから、だれと会い、どこで話をしていても、自分がどちらかといえば出来の悪い映画の中で、学者の役割を演じているという印象がつきまとった。

屋上? そう、教授は最初、この施設の屋上へヘリで到着したんですよ。そしてこの章では、施設到着当日の夜、部屋で教授がこの信号について巡らせた思索について語られています。まだ、あれから1日経ってないのか…。
部屋で教授は考えます。信号を二進法にしたものは、「0001101010001111100110111111001010010100」といった感じで延々続く代物。これを、どう解読しろと?
教授の思索の中で、様々な考えがあぶくのように浮かんでは消えていきます。

われわれのところに送られてくるのは六角形をしたものだといわれている。それは、化学分子か、蜜蜂の蜂房か、あるいは建築物などの図だと見ることもできる。そうした幾何学的な情報に対応させられるものは無数にある。物質的な建材を正確につきとめてはじめて、〈発信者〉たちがつまりなにを問題にしているのかがわかる。

かりに今われわれが十億分の一の早さで十億倍も長く生きるとすれば、その場合の一秒はまるまる一世紀に相当し、大陸が激しく変化していく様子を目のあたりに見て、てっきりそれが変動の過程にあると思いこむにちがいない。つまり、大陸がまるで滝か潮流のように目の前で動くからだ。逆に十倍早い速度でわれわれが生きているとすれば、滝を物だと思うはずだ――それは滝がこの上なく安定した、不動のものに見えるにちがいないからだ。

ここいらへんは、SFマインドが刺激されますね。理詰めによって想像が広がっていくあたり、わくわくします。
この回想録の中での時間の進みはすごく遅いです。教授がヘリで屋上に到着する描写があったのは、30ページも前のことだったりして。しかし、教授はその間にも実に多くのものごとを考えているので、それを記録しようとすると、現実の記述が遅々として進まなくなるのではないでしょうか。
そうして、思索の末、教授はこの信号が「環を閉じている」ことに気づきます。ここいらへんから文系の僕には難しくなってきますが、要するにそれ自体で完結した「何か」だ、と理解しておきます。でも、それだけじゃ、信号が何を示しているのかはわかりません。六角形が分子構造から建築物まで、様々なものに当てはまるのと同じように、「環を閉じている」ものは無数にあるのです。


ということで、ここ(P101)まで。休みの間に、どれだけ読めるかな。